
アトツギ甲子園をご存知でしょうか?全国の中小企業の後継者(アトツギ)が新規事業アイデアを競うピッチイベントです。その意義と魅力を、運営を担う一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事・山野千枝氏と、日本M&Aセンター 取締役 仲川薫との対談でひも解きます。
※本記事は、2026年3月末発行の日本M&Aセンター広報誌「MAVITA」VOL.7からの転載です。
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アトツギ甲子園とは?
2020年度から中小企業庁が主催しているピッチコンテスト。39歳以下の事業後継者が対象で、各々の経営資源を活用した新規ビジネス案をプレゼン。後継者の経営能力の向上や事業承継の機運を醸成。中小企業による地域経済の活性化を目指しています。


仲川 アトツギ甲子園、今年もすばらしい盛り上がりでしたね。
山野 6回目になりますが、熱気は年々上がっていることを実感しました。
仲川 あらためて、山野さんが「アトツギ」に関わるようになった経緯から教えていただけますか?
山野 起点は、私がビジネス情報誌の編集長として中小企業の取材を数多くしていたことです。地方には家業を引き継ぎ、それまでの事業をアップデートするカッコいい方々がいると知りました。斜陽といわれる地場の林業とデジタルとをかけあわせ、新たな価値を生み出していたり、レガシーといわれていた技術を新産業に転換させたり―。
仲川 山野さんがおっしゃっている「ベンチャー型事業承継」ですね。
山野 はい。スタートアップ企業ばかりが注目されますが、承継を予定するアトツギも既存の経営資源を活用して新しい領域に踏み出そうとしている。そんな「アトツギベンチャー」を応援したいと2018年に一般社団法人ベンチャー型事業承継を立ち上げ、さまざまな支援をしてきました。とはいえ、そう簡単な話ではなくて。
仲川 支援は簡単ではなかった?
山野 はい。スタートアップのような取り組みをしているにも関わらず、VC(ベンチャーキャピタル)は投資対象になりにくいという理由でアトツギが眼中にはないと感じました。一方で地元金融機関や自治体の担当者の目は現社長に向きがちで……。
仲川 いま中小企業で廃業が増えているのは後継者不在のためですよね。事業継続が困難になり「倒産」する数より、後継者がいないせいで自主「廃業」する企業が約7倍いるというデータもあります。
山野 それでは地方経済は衰退するばかりです。こうした空気から変えていく必要があると考えました。もとより、地元が衰退するなか斜陽産業の家業で、周囲が現社長にばかり目を向けている状況では、後継者候補の方が「会社を引き継ぎたい」と思うはずもない。
仲川 おっしゃるとおりですね。
山野 そんなアトツギにとっては逆風ともいえる状況の中で、中小企業庁が39歳以下の中小企業の承継予定者に限定した「アトツギ甲子園」をスタートしました。私たちはこの運営事務局として初回から関わっています。コンテストなので、優秀者は補助金の優遇措置やプロモーション支援の機会が得られます。ただ、実はそれは副次的なもの、と考えているんですよ。
仲川 別の狙いがある?
山野 ええ。アトツギベンチャーの方々が表に出ることで「アトツギってカッコいいな」という機運を醸成するのが真の狙いです。悩んでいるアトツギの方々に「家業を継ぐのも面白そう」「既存事業をベースに新しい挑戦もできるのか」とスイッチを入れてもらいたいんです。
仲川 実際、イベントの熱気にふれると触発されますよね。「よし。来年は自分も!」と奮い立つ方も多いはず。
山野 奮い立たされるのはアトツギの方だけじゃないんですよ。

仲川 他に奮い立たされる方とは?
山野 まずは取引先です。アトツギ甲子園はエントリーしただけでサイトに社名がアップされるんです。そして「エントリーしたら本業の引き合いが増えた」という方がとても多い。
仲川 なぜでしょう?
山野 「この会社には未来がある!」と判断されるからです。中小企業だと、いくら実績がある会社でも社長が80歳で後継者がいなければ、長い取引に不安を感じますよね。さらに効果が高いのが「採用」です。いつ廃業するかわからない会社には入社したくない。しかし元気なアトツギがいるとわかると、その疑念が晴れますからね。
仲川 地方の企業にとって、採用はとくに大きな課題です。アトツギの存在がそれを解決する術になりうるのは、インパクトが強いですね。
山野 なかには「子どもが新規事業を提案」と聞くと、自分を否定された気になり、ヘソを曲げる社長もいます。けれど違う。後継者が表に出る方が会社にとって利益になる。現社長こそ挑戦を後押ししていただきたいですね。
仲川 それにしてもピッチでは魅力的なアイデアが各地から出てきます。他のアトツギにとっては、言い訳がきかないほど、業種や会社規模も関係なく登壇されていますね。
山野 そうなんです。先代に遠慮してエントリーを躊躇する人もいますが、私が20年近くアトツギを見てきて思うのは「親は全員うるさい」ということ(笑)。ただ、もっと多くの参加を促すためには「アトツギベンチャーには融資判断がされやすくなる」など金融機関や行政の新たな制度設計も必要かと思っています。もっとも、最近はVCの方々が「なにか一緒にできないか」と積極的にお声がけしてくれるなど、状況が変わってきましたけどね。
仲川 日本M&Aセンターではアトツギ甲子園に2年連続で協賛させていただいています。日本の99.7%が中小企業であり、「後継者不在問題」と「地方創生」は当社にとっても大きなミッションです。これらの課題を解決することは、日本の国力を上げるために不可欠ですからね。

山野 ありがたいことです。ただ「M&A」は第三者承継なので、アトツギは「自分とは関係ない話だ」と思ってしまうのではないでしょうか。
仲川 「売る」と考えるとそうですよね。ただ、M&Aは「買う」側面もあります。たとえば、新たな事業を進めるうえで他社を「買う」。多角化して地域のコングロマリット企業としてさらに成長する、といったことも考えられます。
山野 たしかに。「買う」視点で考えると、可能性はグッと広がりますね。
仲川 そうですね。また、当社では東京プロマーケット、福岡プロマーケットへの上場支援を通じて、地方にスター企業を生み出すお手伝いもしています。いずれにしても、新たな地方のスター企業が輩出される場として、アトツギ甲子園からは目が離せません。
山野 あえて「甲子園」という言葉を使ったのは、そんなスター企業を、地域をあげて応援する形をつくりたかったからです。プロ野球を見ない人でも高校野球では地元の学校を応援する。まさに本当の甲子園のようにスターが生まれ、その人や会社を地域が推していく世界観を盛り上げていきたいですね。
仲川 楽しみです。私の地元の茨城からも、そんなスターが出てきてほしいですね(笑)。
「地方創生賞」は日本バイオテック(沖縄県)外間 椿さん
2026年2月27日に東京都内で決勝大会が開催されました。日本M&Aセンターでは第5回より企業特別賞として「地方創生賞」を設けており、今回は日本バイオテック(沖縄県)外間 椿さんを表彰しました。
アトツギ甲子園の審査基準
①新規性 ②持続可能性 ③社会性 ④承継予定の会社の経営資源活用 ⑤熱量・ストーリー

経済産業省 中小企業庁 事業環境部 財務課 薮内 亮我 氏
アトツギ甲子園は後継者のみを対象とした、既存資源を活用した、ビジネスアイデアを競い合う日本で唯一のピッチイベントです。今大会は、全国から過去最多の225名にエントリーいただきました。
アトツギ甲子園は、中小企業の事業承継の促進、事業承継を契機とした経営革新を目的に実施しておりますが、昨今環境変化が激しく、後継者には、これまで以上の取組が求められています。そこで、ピッチを通して、家業を見つめ直し、10年後の事業の柱を生み出していただきたいと考えています。
過去出場された方には、すでに事業承継を実施された方も多く、アトツギ甲子園は、事業承継のきっかけとしてとらえられています。

写真:富本 真之 文:箱田 高樹




