神戸大学大学院経営学研究科と日本M&Aセンターホールディングスでつくる「中小M&A研究教育センター」は2024年9月18日、年次シンポジウム「中小M&Aの未来を考える」を日本M&Aセンター東京本社で開催しました。シンポジウムは今回で3回目となり、オンライン参加者も含めて100人以上が参加しました。今年9月に初めて出版した「中小M&A白書(2024-25年度版)」の記念として開催し、研究者やM&Aの実務者のほか、中央省庁から政策立案者による講演と研究報告の発表がありました。中小M&A研究教育センターでは今後、「中小M&A学会」の立ち上げを目指し、さらに研究等を進めていきます。
中小M&A研究教育センターは、日本M&AセンターHDと神戸大学大学院経営学研究科による産学連携の取り組みで、中小企業の存続と持続的成長に寄与するための研究・教育・実践を目的に、2022年4月に同研究科内に設立しました。初めて出版した「中小M&A白書」は同センターが設立当初から目指してきた研究成果の一つで、日本M&Aセンターグループが保有する成約データをもとに、中小M&Aにおける各分野の専門的な論文を掲載するほか、設立を目指す「中小M&A学会」の学会報として今後、活用していきます。
開会の挨拶で、神戸大学大学院経営学研究科長の國部 克彦教授は「神戸大学には、学問を実践と調和させ日本経済の発展を目指す『学理と実際の調和』という建学の理念があり、これは大学の前身である神戸高等商業学校の時代から120年以上続いています。経営学研究科は神戸大学の中心の学部・研究科として『単に学理を研究するだけはなく、実践しなければならない』という使命を持ち、中小M&A研究教育センター設立から3年目を迎えた現在、中小M&Aに関する研究成果を挙げています。中小M&A研究教育センターは、中小M&Aの課題が「企業の生産性向上や地域経済の成長のためにM&Aの重要性が増しているにもかかわらず、データの不足からその実態が明らかにされていないこと」と考え、この状況を改善し客観的な根拠に基づく議論をするため、学理を実践に取り込んで分析と研究をしています。今回出版した『中小M&A白書』をその研究成果の第一歩として、本日お集まりいただいたみなさまのご協力のもと、今後もM&Aによる中小企業の活性化、ひいては日本企業の発展につなげるため何が必要かを解明すべく研究を続けていきます」と述べました。
中小企業庁事業環境部財務課の笠井康広課長は「中小M&Aの課題と方向性」と題して、事業承継やM&A の現状と課題、対応の方向性について発表しました。経営者の平均年齢が60.5歳と過去最高を更新(2023年時点)したことやM&Aを実施した企業の売上高・経常利益・労働生産性は実施していない企業と比べ向上していることを、データを用いて説明しました。中小企業の経営革新のためには、事業承継やM&A後の成長に向けた取り組み(PMI等)の促進が重要であることなどに触れ、事業承継税制や改訂した中小M&Aガイドラインのポイントなど政策を解説しました。
日本M&Aセンターで法務部長も務める神戸大学大学院経営学研究科の横井伸客員教授は「産学連携によるデータ活用から見た中小M&A契約」について発表しました。中小M&A白書のデータとして、同社が2021年に成約した約500件を弁護士の立場から調査し、M&Aの実務で日本を先行するアメリカでは、中小M&Aが活発に調査や研究が進んでいることを紹介。日本とアメリカにおける表明保証期間や内容、契約書や条項の違いについて解説しました。
神戸大学大学院経営学研究科の戸梶奈都子准教授は「クロスボーダーM&Aの実態と考察」をテーマに講演。日本企業が海外企業を譲り受けるIN-OUT成約件数では、中小企業による案件が近年、増加傾向であることを伝え、業績不振や円安により日本の大企業が売却した海外子会社を海外企業が譲り受けるOUT-IN成約案件も増えている状況を紹介し、クロスボーダーM&Aと国内M&Aでは、M&Aの投資目的が異なることなどの研究結果を発表しました。
文部科学省高等教育局私学部私学助成課の板倉寛課長は「人口減少社会における大学の在り方と施策の方向性」について講演しました。板倉課長は2040年に日本の生産年齢人口が現在よりも約2割減少し、将来働き手となる学生には、今よりも高い能力や生産性が求められていくと述べました。今後の日本ではそれぞれの職種で求められるスキルや能力が変化していることを予測し、従来の注意深さや責任感といった資質から、革新性や問題発見能力といった新しいモノを生み出す能力の涵養が求められるとして、大学などの高等教育機関が経営改革による新たな時代に対応した教育体制の構築と支援、論理的思考やデータ処理能力を持つ博士人材の育成やキャリア支援を強化し、外国人留学生や社会人といった多様な学生の受け入れが必要であると語りました。
シンポジウム後半では、中小M&A研究教育センター長の忽那憲治客員教授(東京大学応用資本市場研究センター特任教授)が「中小M&A学会」の設立について発表しました。学会では当該領域の研究者、院生、実務家、政策担当者が議論する場を提供するため、2025年4月設立に向けて準備を進めており、学会設立から2年後の2027年4月までに学会誌『(仮)中小M&A研究』の立ち上げを目標に掲げています。また国際交流の一環として、アメリカのコーネル大学やオーストラリアのアデレード大学等の海外大学との連携も模索しています。
日本M&AセンターHDの三宅 卓社長は閉会の挨拶で「産学官の協力関係を築くことで、『学術研究結果を基にメーカーが製品を作り、経済産業省が方向性を示す』というような三者の歯車が上手く噛み合う自動車業界のような流れを、中小M&A業界でもつくりたいと考えています。近年は中小企業庁の中小M&Aガイドライン改訂に加えて、自主規制団体(M&A仲介協会)による厳しいガイドライン策定を通じて、官と産は連携ができてきました。一方で、「学」であるアカデミアの部分では、中小M&Aはディスクローズされないため、シナジー効果の測定方法や契約書のあり方など研究材料が乏しく、その分、研究が遅れていました。企業価値評価に至っては30年前と同じ方法で行っているのが現状です。今後は研究データの対象を、他社を含めた業界全体でも行っていき、データの精度も上げていきます。日本では127万社の後継者不在や生産年齢人口の減少で苦しむ中小企業を救えるのはM&Aです。M&Aによって設備投資やDX、人材教育が可能となって生産性の向上も期待できます」と話しました。閉会後には参加者同士の意見交換会もあり、産学官連携をさらに深めるシンポジウムとなりました。
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M&Aマガジンより転載:中小M&A白書出版を記念したシンポジウムを開催