日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.3から掲載記事をご紹介。
株式会社ジャパンブルー
世界に誇るジャパンデニムの一大生産地、児島(岡山県倉敷市)で、同地を拠点に、その類まれなものづくりを国内外に発信するデニムメーカー「ジャパンブルー」にフォーカスします。
児島駅から15分ほど歩くと、他に類を見ない通りがあります。国産ジーンズの聖地を象徴する「ジーンズストリート」です。400メートルほどの通りにはジーンズショップなど約40の店が並び、見上げれば何本ものジーンズが暖簾のように吊るされています。
この通りの誕生に携わったのが、「桃太郎ジーンズ」などのブランドを手がけるジャパンブルーです。そんな同社が今、大きく進化しようとしています。目指すは「デニムのメゾン(ハイブランド)」。その背景には他にはない生産体制、そしてM&Aがありました。
「ジャパンブルーの前身が誕生したのは、1992年のこと。もともとは、デニムなどのテキスタイル(生地)の卸や製造を行う会社でした」と話すのは、刈田直文代表取締役会長兼社長です。「児島は干拓された土地のため稲作に不向きでしたが、綿の生産が盛んで、古くから「和装の帯締め」に使われる真田紐(さなだひも)や、足袋、学生服といった綿製品で有名な産地でした。
そして高度成長期にはジーンズの生産を開始。日本で初めての国産ジーンズや国産デニム生地も、ここ児島で生まれました。そうしてこの地域は、いつしか世界ナンバーワンのデニム産地と言われ、海外からも多くのバイヤーが訪れる場所となったんです」
児島で事業を始めたジャパンブルーの前身企業は2006年、テキスタイル事業に加え、自社ブランド「桃太郎ジーンズ」の製造・販売をスタート。翌年には東京にも自社店舗を構えます。そして2014年、複数の事業会社とブランドを統合し、株式会社ジャパンブルーを設立。同社の創業者の真鍋寿男前社長は、ジーンズストリートの設立を提唱し、各方面に働きかけた人物でもありました。
そうして同社は国内外で高い評価を得る存在になったものの、コロナ禍の逆風もあり、M&Aを検討することになります。
そんな中、日本M&Aセンターを通じて声がかかったのが、プライベート・エクイティ・ファンド「刈田・アンド・カンパニー」でした。
「真鍋さんといろいろなお話をする中で、『自分ができることはやりきった。今後の会社の成長を考えて、刈田さんに頼みたい』とおっしゃっていただいて。私としても、同社には他にはないポテンシャルを感じたので、喜んでお引き受けすることにしたんです」
こうしてジャパンブルーは2022年1月、刈田社長の元で再出発をします。
ジャパンブルーの大きな特徴の一つが、稀有な生産体制でした。同社は「糸の染色・製織・縫製」といった各工程の設備と職人を有し、ジャパンデニム特有の高品質で深い味わいのジーンズを自社で生産できるのが最大の強みとなっています。また、同様の品質で生産できる外部の協力工場とも取引し、大量生産を可能にしています。
「とにかく、生産を担うメンバーがすばらしい方ばかりなんです。品質の向上に飽くなきこだわりを持ち続ける社内外の職人のパワーが、当社の価値のコアとなっています」
2022年に同社に参画した鈴木完尚取締役副社長も、こう明かします。
「『製造業は口で売る商売ではなく、ものがすべて。だから少しずつでもクオリティを上げていくのが、私たちの宿命です』『毎日同じことをしていて飽きませんかと聞かれますが、ものを作り、その商品がどこへ歩いていくかって、私たちにはわからない。だから不安もありますが、いいものを作りたいと思っています。なので、まったく飽きませんよ』。これらはすべてジャパンブルーで働く職人たちの言葉です。キャリアを重ねた職人ほど、こうした言葉にも表れているように、ユーザーの心に寄り添い、一心にものづくりに取り組んでいます。その姿を見て、改めて日本の職人技術の矜持と美しさに気づいたんです」
同社では現在、ジーンズの製造・販売と、テキスタイル事業の売上比率が、ほぼ半々となっています。後者においては、国内外の有名ブランドの生地も数多く手がけます。
「生産背景を踏まえると、デニムブランドの経済価値には、私たちにも計り知れない伸びしろが残されているんです。そこで生まれたのが、『デニムのメゾンを作る』という基本戦略です。いわゆるハイブランド化することが、当社の成長の切り札になると考えています」(刈田社長)
では、同社は〝デニムのメゾン〞を、どう実現しようとしているのでしょう?
鈴木副社長はこう説きます。
「当社のデニムの本質的な価値は、日本的な美の本質にそのまま通じています。表面的な部分ではなく、極限まで削ぎ落とした引き算の美学、そして余白の美しさです。そうした価値の真ん中をストレートに伝えたいなと。なので、ブランドを刷新するのではなく、より正しく伝えていくという感覚です」
〝デニムのメゾン〞というコンセプトを定義したことで、やるべきことも見えてきました。その一つが、「アトリエ」の創設です。
「現在、建屋が分かれている各生産工程を、アトリエとして一つの建屋に集約する。織機の音を聞きながら企画をし、染めの様子を見ながらお客様とお話をする。こうすることで、まだ見ぬものが創造できるのではないかと考えています。世界で当社だけの〝シグネチャー〞を生み出していければと思うのです」
こうした取り組みを通し、同社は現在50億円ほどの売上を、将来的に100億円規模に引き上げることも十分可能だと考えます。
そんな同社では、新体制のもとで進化させた桃太郎ジーンズのリローンチ発表を、2024年初夏に行う予定です。
今後、ジャパンブルーはどんな成長の軌跡を描くのか。同社が真のメゾンとなった時、児島のものづくりもまた、新たな地平に進むこととなるのでしょう。
写真:富本 真之 文:田嶋 章博
広報誌「MAVITA」について
「MAVITA」という名前には「M&Aのある人生」(vita=ラテン語で人生・生活の意)という意味を込めています。M&A業界の今が分かる情報誌を通じ、M&Aのある人生を考えていただくことをコンセプトに、日本の中小企業を取り巻く状況や、経営に関わるトピックを幅広く掲載しています。