(右)<譲渡企業>吹田鉄工株式会社 代表取締役 吹田 一平さん
(左)<譲受け企業>株式会社坂海工業所 代表取締役社長 西田 成希さん
M&Aの成約にあたり、日本M&Aセンターでは「M&A成約式」というセレモニーを執り行います。譲渡企業にとっては経営者人生の締めくくりです。譲受け企業にとってはM&Aを成功させる覚悟ができます。一つとして同じものがない「心に残る成約式」をご紹介します。
※本記事は、2025年3月末発行の日本M&Aセンター広報誌「MAVITA」VOL.5からの転載です。
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「長年の友のような熱い絆を感じ、この出会いに確信を持つようになりました。同じ目標に向かって新たな一歩を踏み出していきたいと思います」
2021年1月18日に行われた吹田鉄工と坂海工業所のM&A成約式。M&A後も社長を継続する譲渡企業の吹田一平社長の挨拶には、新しい経営のパートナーを得た喜びと明るい未来への決意があふれていました。
後継者不在に悩んでいた吹田社長。日本M&AセンターからM&Aを提案された当初はなかなか受け入れられなかったといいますが、西田成希社長と出会ったことでベストな選択だと感じられるようになったそうです。
吹田鉄工を譲り受けた坂海工業所の西田社長もまた、吹田社長への想いを語りました。
「初めてお会いした時に吹田社長の人柄に惚れたというのが今回のM&Aを決めた1番の理由です。人生は出会いとご縁だと思ってきましたが、この出会いも必然というか、出会うべくして出会ったと感謝しています」
お互いに人柄に惹かれて意気投合、順調に成約されたのかと思いきや、じつは一度、交渉が白紙になりかけました。デューデリジェンス中に体調を崩された西田社長。病状が深刻でこのまま交渉を進めることは難しいと判断し、吹田社長に「迷惑をかけられない」と伝えたそうです。
すると、吹田社長から手紙が届き、こう綴られていました。「私は妻と二人で会社の経営をやってきました。つらい時や困った時には妻に相談してきた。これからは社長にとって私がそういう役目をします」―。西田社長は、手紙を読んで覚悟を決めました。「命をかけてやらないといけない」と。
手紙を書いた理由を、吹田社長はこう話します。
「私はM&A後も継続勤務を希望していましたので、西田社長と一緒に経営をしていきたいと思ったのです。会社を託すなら西田社長にという気持ちが強かった。それで想いを手紙に書きました」
成約式での挨拶の最後を、吹田社長はこう締めくくりました。
「引退する時に西田社長から『大儀であった』と言われることを目標に頑張りたいと思います」
吹田社長の「西田社長と一緒に経営を続けたい」という熱意が結実した成約式でした。