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経営トップがダイバーシティ経営を語る「ジェンダーギャップ会議」

経営トップがダイバーシティ経営を語る「ジェンダーギャップ会議」

5月31日、東京・丸の内にて日本経済新聞社と日経BPによる「ジェンダーギャップ会議」が行われ、日本M&Aセンターホールディングス三宅卓社長が、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授と「ダイバーシティ経営の未来」について対談しました。現在注力している女性営業職や女性管理職の育成プログラムや社員とのコミュニケーション方法を紹介し、ダイバーシティ経営への考えを語り合いました。


本対談は、日本経済新聞社と日経BPが主催する「ジェンダーギャップ会議 ダイバーシティ経営の最新事例2024~先進企業に学ぶ成功の秘訣~」のプログラムの一つです。「経営学者・入山章栄さんが迫る!先進企業トップと考えるダイバーシティ経営の未来」と題した本対談の一部をレポートします。ファシリテーターを務めるのは、日経xwoman編集委員の小田舞子さんです。

小田編集委員:最近のダイバーシティ経営のトレンドは?

入山教授:本腰を入れて取り組み始めた会社と、なんとなく取り組んでいる企業の2タイプがあります。ダイバーシティ(多様性)は、インクルージョン(包摂性)とエクイティ(公平/公正性)をセットで考えるべきです。「DE&I」です。日本は世界と比べかなり遅れています。

小田編集委員:ダイバーシティを成長につなげられる企業とつなげられない企業は、何が違うのでしょうか?

入山教授:最大の要因はトップの意識。社長がどういう思いでやっているか。これが全てですね。

三宅社長:M&Aの世界では、シナジー(相乗)効果が重要です。たとえば営業力が強い会社と製造能力が高い会社が組むなど、異なる強みを活かして相乗効果を出すのが成功の秘訣です。人や組織も同じで、違った個性をどう組み合わせていくかによって生産性が一気に上がります。1+1が3にも4にもなるので、ダイバーシティは非常に重要だと思っています。

入山教授:M&A仲介業の営業職は体力的にもハードで、男性中心ではないのでしょうか?ダイバーシティ経営の重要性はいつから感じましたか。

三宅社長:数年前から考え始めました。これまでもバックオフィスやミドルオフィスには優秀な女性が多くいましたが、営業職の女性の活躍推進も本格的に始めました。

入山教授:他社の例でもスタッフ職には優秀な女性が多いのですが、営業職では女性社員が少ないのが現状です。顧客が男性中心の場合、女性の営業職を起用するのは難しいのかもしれません。他の大手企業なども恐らく同じような状況でしょう。どうやって進めていますか。

三宅社長:M&Aは企業の存続と発展を担う非常に重い仕事で、全身全霊で取り組む覚悟が必要です。さらには、顧客である中小企業の経営者の多くは男性で、若い女性営業担当に対する不安も少なからずあるのではと思っていました。
しかしいざ女性を登用してみると、相手の気持ちに寄り添ったインタビューをし、傾聴することで共感してもらいやすく、提案前の事前準備を丁寧に行うことで熱意も伝わります。そういう個性を上手く活かすことで、良いチームビルディングにつながります。性差よりは個人差の方が大きいです。

入山教授:心理学の分野では男女の得意分野に違いがあることは昔から言われており、社会心理学の面でも女性は高い共感力を持ち傾聴を得意とする人が多いと言われています。そういう要素を組み合わせると強いチームができるということですね。

小田編集委員:日本M&Aセンターグループでの取り組みを教えてください。

三宅社長:今年は3月の国際女性デー前に全社 D&I(Diversity & Inclusion)イベントを開催し、社内でもD&Iが浸透しつつあります。また「Teach-in」と称して年間2回、女性営業職を集めあらゆる疑問に答えるイベントを開催し、50~60の質問に対して私が約3時間かけて回答しています。

入山教授:東証プライム上場企業の社長が、社員に囲まれ質問攻めにあうのですか!?すごいですね!

三宅社長:我が家も妻が長く仕事をしていたことから、自分が積極的に育児に関わってきた体験談を伝えています。女性もキャリアビジョンや社会的使命を持って働くことは、今後日本が一流の国として存続していくために絶対に必要なことです。女性管理職向けには「ラウンドテーブル」と称して自宅へ招き、ディスカッションを実施後、食事会を開催しています。

入山教授:社長宅に行けるんですね。これからの時代はまさに三宅社長のような「透明性」が非常に重要です。現代はSNS等の発達で嘘がわかってしまう時代なので、可能な限りオープンにすることが大切。経営学では「オーセンティック・リーダーシップ」(オーセンティック=取り繕わない、弱みも含めた本当の自分らしいという意味)という用語があり、三宅社長はその点で優れておられるからこそ、社員を自宅に呼ぶことができるし、社員も信頼してついてきてくれるのでしょうね。

小田編集委員:日本M&Aセンターが考えるダイバーシティ経営の課題と目標を教えてください。

三宅社長:「2030年までに女性役員の比率を30%以上とする」という目標については、当社も当然プライム上場企業として達成します。本来は50%を目指すべきなんですけどね。実現する方法は3つあって、一つは社外から役員候補を招聘する、二つ目は下駄をはかせてでも無理に登用する。しかしこれらは意味がありません。社員は見ていますから、むしろD&Iが遅れます。三つ目の「本当の意味での育成」が必要と考えており、そのために女性社員比率を現在の28%から35%まで増やしたいと思います。また、女性管理職比率は現在の16%から30%を目指します。管理職になりたいと思える女性を増やすためにも、働く環境(育児・介護)の整備をより進めていきます。

小田編集委員:そもそもの話に戻りますが、なぜダイバーシティが必要なのでしょうか。

入山教授:答えはシンプルで、業績を上げるためです。業績を上げるには生産性の向上が必要で、そのためにはイノベーション(革新)が必要だからです。
イノベーションの根源は「離れた知見や能力を組み合わせること」。可能な限り自分が持っていない知見・能力を持つ人同士が協力して物事を考え進めていくことで、イノベーションが生まれ、それにより生産性が向上し、業績が上がります。私を含め多くの人は視野が狭く、目の前のもの同士を組み合わせても新しいものは生まれません。D&Iにより新しい考えが生まれるのです。
今まで「M&Aの営業職は男性しかできない」という風潮であったところに女性が入ることで、異なる能力が合わさり、新しい営業スタイルが生まれていく。これが日本M&Aセンターで起こっているイノベーションなのだと思います。

小田編集委員:違うものを組み合わせ、イノベーションを興すために必要なことはありますか。

入山教授:「心理的安全性」が最重要です。D&Iの「I」(インクルージョン)は「心理的安全性」だと思っています。例えば会議などで「人と違う意見を言っても良い」という心理的安全性が保たれると、横のつながりが生まれ発言者同士が意見を出し合い、新たな意見も生まれやすくなるでしょう。
本来ダイバーシティを取り入れると、色々な考えの人がいるため会議で揉めるはず。もめない会議のほうが異常なのです。ダイバーシティを取り入れると自分の意見に反対する人が出てくるかもしれませんし、その意見を言う人が自分よりかなり若い異性の人かもしれません。自分とは違う立場の意見だからと無視してしまうと、その人はもう二度と意見を言わなくなります。このようなことにならないよう、ダイバーシティを推進するこれからの管理職にはファシリテーション能力が必要なのです。自分が積極的に発言するのではなく、周囲に話をしてもらうよう仕掛ける能力です。

三宅社長:私は以前、年間45回「合宿」と称して毎回3時間、現場社員からひたすら意見を聞く機会を設けていました。聞くことで意見を引き出せ、引き出すことで新しい価値創造ができます。そこで出た新しいアイデアを受け入れ、まずは小さなこと・すぐ実現できることを支援すると「意見が通った」という自信につながり、次の合宿でさらに意見がどんどん出てくるようになりました。

入山教授:年間45回…ほぼ毎週ですか!多くの意見が出たということは、心理的安全性が保たれていた証拠ですね。

三宅社長:その他にも最近、一部の中堅社員に自分の長所短所を把握するため「自分のバランスシート」の作成を呼び掛けています。どんな営業スタイルがいいのか、どんな業務をしたいのか、どんな指導が必要なのかを自分で認識し、上司にも理解してもらうことで、成長に役立つと考えているからです。

会場参加者(男性)からの質問:中間管理職として意識すべき点などあれば教えてください。

三宅社長:組織内の上下左右とどれだけコミュニケーションを取れるかが重要だと思います。上司から言われたことをきちんと理解して、自分の言葉でわかりやすく部下に伝えられるようになれば、信頼関係も強まります。同じ立場の人と助け合うことで横のつながりもできれば、さらに相乗効果が見込めるでしょう。

入山教授:自分がマイノリティ経験をすることです。これまで経験したことが無い・当たり前だと思っていることが通じない環境にあえて自分を置き、経験を積むと、視野の拡大につながります。おすすめは、子供の学校行事(女性参加者中心の保護者会)に参加することです!

日本M&AセンターグループのD&Iの取り組み